CASESTUDY #01
WORK:ローリングスシー in おおさかカンヴァス

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Class初となる、アートイベント参加の道のりと、水辺空間の活用について

大阪のまちをアーティストの発表の場「カンヴァス」に見立て、新たな都市の魅力を創造・発信する「おおさかカンヴァス」。それは、Classにとって初となる、アートイベントへの参加でした。道頓堀川に、巨大な回転寿司を流す「ローリングスシー」を出展し、道頓堀史上類を見ない来場者数や経済効果を記録。アーティストではない、広告制作会社がアートにチャレンジした経緯や、イベント実現までの過程や成果を語ってもらいました。
(取材・文 西道紗恵)


登場人物

福地 諒
Class株式会社のプロデューサー。ローリングスシーではプランナー・プロデューサーを担当。寿司ボーイのくせに、わさびが苦手。

大沢 隆之
通称:オニオン。その圧倒的なフォルム(容姿)とコミュ力から、老若男女問わず多くのファンをもつ。ローリングスシーでは、PMを担当。


アーティストでもない広告制作会社が、アートイベントに出展。

おおさかカンヴァスに参加した理由は何ですか?

2015年のコンセプトは「たたかう芸術祭」

2015年のコンセプトは「たたかう芸術祭」

福地:2015年の春、大阪府主催の公募制アートイベントがあると知って、説明会に行ったのが始まりです。そこで、ただのアート展じゃなくて、“大阪のまちを使って大阪の魅力を発信する”という明確なミッションがあることを知って、これはおもしろいなと思いました。

おおさかカンヴァス
http://osaka-canvas.jp/

大沢:説明を受けて、できるかできないより、まずは考えて出してみようと気持ちでした。新しい分野に挑戦してみようと。

福地:これまで私たちが取り組んできたことは、イベントやWebの制作だったんですが、課題から解決方法を考える広告制作会社ならではの視点でアート作品をつくれば、意味のあるものができるのではないかと思い、動き出しました。


作品は公募ということですが、大阪府が求めているものは何だったんでしょうか?

カンヴァスー2015_p4p5

福地:展示会場として用意されたのは、公園や川などの公共空間だったので、その場を上手く活用して大阪の魅力を再発見、発信できているか。また、行政が取り組んできたインフラ整備の延長線として、意義のある作品であるかどうかもポイントでした。

大沢:自分の欲求を満たすだけの作品づくりではなく、あくまでも大阪の魅力創造。与えられた空間をフル活用して表現する、大阪ならではのアイデアが求められていたと思います。


そこで思いついたのが「ローリングスシー」ですね。一体、どんな作品なのでしょうか。

初期の荒いカンプ(笑)

初期の荒いカンプ(笑)

福地:大きくは、川を回転寿司のレーンに見立てて、巨大な寿司が流れるというものなんですが、そもそも回転寿司は大阪発祥の食文化。大阪ならではの歴史と、今回の展示会場をかけ合わせたときに、川を使って回転寿司を表現できたらおもしろいのではないかと考えました。イベントのミッションである大阪の魅力発信もクリアできているし、見た目もインパクトがありアイコニックで、外部にも発信しやすくて良いんじゃないかと。

大沢:あと単純に、私たちが寿司好きで、日頃からよく回転寿司に行っていたというのもひとつです(笑)自分たちの慣れ親しんだものを、アート作品にする面白さがありました。


斬新なアイデアですが、そのアイデアは、どのようにして生まれたのでしょうか?

左:いいねを風船で表す装置 右:つぶやきを川に流す装置

左:いいねを風船で表す装置
右:つぶやきを川に流す装置

福地:はじめは、デジタルとアナログを繋ぐような作品を作りたいと思っていて、例えばツイッターのタイムラインを川に流したり、グーグルマップのピンを現実世界に立ててみたり、いいねを風船で表現してみたり。でもいまいちピンとこなくて…。改めて見直すと、与えられた展示会場として「川」を使えるのが珍しいと思ったので、まず川を舞台にできることを考え始めました。

大沢:ロケハンにも何度も出かけました。みんなで川べりを歩きながら、どんな作品ができるだろうか、どうしたらおもしろいプロジェクトになるかを話していたんです。

福地:そしてしばらく、大阪の地図や、水辺に関する歴史や資料とにらめっこしながらロケハンしていたら、大阪の川って、コの字型になっていることに気づいたんです。「川を流れる…コの字型…レーン?…あ、これ、寿司流したらおもしろいやん!」とアイデアが生まれて、回転寿司が大阪発祥という歴史も、そこでうまく紐付きました。

ジェットスシー

ジェットスシー

福地:ちなみに、最初は作品名も「ローリングスシー」ではなく、「ジェットスシー」や「案ずるより産むがやスシ」だったんですけど、川の流れを見ていると、ジェット感もないし、ローリングスシーのほうが分かりやすいと思って改名しました(笑)


アイデアを提出したときの、審査員の評価はどうでしたか?

大沢:ぜひ実施したいが、実現性次第だとは言われていました。私たちのような株式会社という形式でこのイベントに出展した前例もなかったので、興味を持っていただけたんだと思います。

福地:天下の台所である大阪の、食の歴史を絡めながら、イベントの趣旨をつかんだ企画ということで評価いただきました。寿司愛と大阪愛が伝わった瞬間でした(笑)


製作期間2ヵ月という、実施までの道のり。

作品完成までに、どんな苦労や課題がありましたか?

初期の構想図

初期の構想図

大沢:実際に作品づくりを始めたのは8月から。イベントの2ヵ月前ですね。はじめは、寿司のなかに人が入って、寿司を漕ぎながら自由に動き回るという想定だったんですが、安全を第一に考えて、お寿司を舟で引っ張る「曳航」という形になりました。引っ張る人員も、プロでないと安全性を確保できないということで、日本シティサップ協会の方にご協力いただきました。

福地:川に巨大なモノを流すためには、さまざまな河川における都市規制をクリアする必要があります。たとえば、川の流れの安定性や、水位の高さ、風の強さ、他の舟とのすれ違い方法など。でもそれは、簡単に自分たちで解決できる問題ではなかったので、自分たちも勉強しつつ、あくまでも作品づくりに専念できるように、大阪府の方たちが規制緩和に尽力してくださいました。行政がそこを担ってくださる、その構造自体が面白いことでもあるんですが、その中で最終的に作品の展示会場として決まったのが、道頓堀川でした。

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大沢:作品をつくり始めるにあたり、私たちは、いわゆる造形の知識やスキルがゼロだったので、制作監修を、株式会社ポップ工芸さんに依頼し、全体のクリエイティブディレクションは私たち、細かなデザインはお任せするという座組を組ませていただきました。

大沢:また、今回は公募事業という性質上、予算も限られていたので、材料費だけで製作を受けていただくことになりました。その代わりに、自分たちも一緒に製作することが条件だったんですが、私たちを入れたとしても人手不足だったので、同時に寿司づくりを手伝ってくれるボランティアを募りました。

ボランティア募集用フライヤー

ボランティア募集用フライヤー

福地:関西のほぼ全ての芸術系大学に足を運び、学校の許可の元、チラシを配るという地道な勧誘でしたが、最終的には20名ほどのボランティアの方たちに協力していただくことができました。

大沢:いざ制作過程に入りまして、河川の法律をクリアしつつ目立つサイズはどこなのかを調整したり、マグロはもっとぽてっとした感じ!とか、サーモンはもっとツヤ感がいるとか、シャリは小さくとか、造形面でのアドバイスをいただきながらも、自分たちの理想のデザインに近づけるため、慎重に打ち合わせを重ねました。

切り出し後の寿司

切り出し後の寿司


ローリングスシーの実施にあたって、他に工夫されたことはありますか?

福地:ちょっと運が良かったのは、イベント開催1ヵ月前、早朝の道頓堀川で寿司のテスト曳航を行ったんです。それは自体は、どこにも事前告知はせずに非公開で実施したんですが、その様子を撮影してSNSにあげた写真がテレビやネットで取り上げられ、大阪でかなり話題になったんです。

ZIP!に取り上げられた時の様子

ZIP!に取り上げられた時の様子

福地:そこで、ただ寿司を流すだけじゃなく、この話題性を活かした戦略を考え始めました。まずは、現地に来てくれたお客さんのための、お祭りのような場づくり。そして、それを写真に撮って、SNSで発信してもらうためのギミック。さらに、日本の回転寿司文化を、海外の人たちにも楽しんでもらうためのストーリーづくりです。

大沢:特に、どうすれば写真を撮ってくれるかというギミックは策を練りましたね。

寿司ダンサーズ

寿司ダンサーズ

福地:まずは、道頓堀川の水辺親水空間を活用してその場を盛り上げるため、ダンサーを招いたり、フォトスポットを設置しました。

福地:そして、写真を撮って拡散してもらうために、参加者に配る割り箸を用意。遠近法を使って、寿司をつかめれば、楽しく撮影してもらえると思ったんです。更に、ただ撮るだけでは面白くないので、地域店舗と連携して、撮った写真をSNSにアップしてくれた人に、赤だしを配るテントを用意しました。そこで、撮影で使った割り箸を使ってもらうことで、お箸文化も楽しんでもらいながら、ゴミも1ヶ所に集めることができました。

お箸で寿司をつかむ様子

お箸で寿司をつかむ様子

大沢:あと、ミュージシャンのORANGE RANGEさんが、同時期に「SUSHI食べたい feat.ソイソース」という曲を発表されたので、何かいっしょにコラボできればおもしろいと思って連絡したところ、快諾いただいて。

福地:私たちとしてはミュージシャンとコラボということでPRにもなるし、オレンジレンジさんも大阪のまちを使って曲のPRをできるので、お互いに面白い取り組みができそうだと。ローリングスシーを流す際のBGMとして使用させていただきました。

大沢:結果、ただ寿司を流すだけではなく、空間全体を使った演出が叶いました。


前代未聞の来場者数や経済効果を記録。会場を訪れた人々に、笑顔が生まれる。

ローリングスシーが実現して、どんな手ごたえや成果を感じましたか?

福地:自分たちが想像していた何十倍もの人たちが来てくださって、正直圧倒されました…!誰も来てくれないんじゃないかと、心配していた面もあったので。

大沢:印象にのこっているのは、夜の曳航のときの圧倒的な人。トランシーバーで「戎橋あたりに人があふれているので、警備を増やしましょう」という連絡がきて確認に行ったら、全て人で埋め尽くされていて、鳥肌がたちました(笑)

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イベント当日の様子

イベント当日の様子

福地:国内だけでなく、アジアや欧米など、海外の方にも多くお越しいただきました。お寿司という分かりやすいコンテンツのおかげで、勝手に多言語に翻訳されて、さまざまな国のメディアに発信していただいていたようです。その分現場では、質問されたら、Google翻訳を使いながら多言語で受け答えする必要があり大変でしたが(笑)

大沢:あと、高齢者の方が来てくださっていたのにも驚きました。その方は、新聞の朝刊を見て、興味を持ってくださったそうで、メディアの伝わり方にもいろいろあるなと実感しました。


来場者数 3日程合計:約46,000人
費用対効果 8,500%達成
広告換算費 ¥134,825,494
メディア掲載 60媒体以上


イベントを終えて、反省点や課題はありますか?

福地:想像をはるかに越えて多くの方に来場いただいたのが、うれしかった点でもあり、中国語の案内は出していなかったりと対応しきれなかった反省点でもあります。展示としてのおもしろさは伝わったと思いますが、このイベントの趣旨をどれだけ伝えきれたかというところに、少し不安が残ります。

大沢:おおさかおもろいなーという印象は持っていただいたと確信できますが…


おおさかカンヴァス終了後の、ローリングスシーの活動を教えてください。

福地:まずは、いくつかのイベントにお声がけいただき、ローリングスシーを展示しました。クリスマスには電飾をつけて、「光るクリスマスシー」と題してお披露目したり、ニコニコ町会議やORANGE RANGEさんからもオファーをいただき、ライブやイベントの際のフォトスポットとして会場に設置させていただきました。

光るクリスマスシー

光るクリスマスシー

福地:また、ローリングスシーの実施から1年が経ちましたが、昨今では、全国各地で川や水辺がアートやイベントの会場として当たり前に使われる風潮が生まれてきています。当時、川を使ってアートを展示することや、そもそも行政がアートに予算を投資するのは、日本国内でも稀な事例でした。大阪から発信したローリングスシーが、水辺を使ったイベント開催のケーススタディモデルとなって全国で議論されているのが、とても嬉しいです


これからの目標は何ですか?

大沢:おおさかカンヴァスをとおして、おおさかならではの判断基準や、アナログなモノづくりのおもしろさを実感しました。今回のノウハウを活かして、これからも世の中にインパクトを与えていきたいです。

福地:ローリングスシーを大阪以外でも開催するという野望もあるのですが、大きな軸としては、今回のように意味あるモノづくりをとおした広告を手がけていきたいです。実体をともなう、手ざわり感のあるものとデジタルを組み合わせて、新しいプロモーションを生み出していけたらと思います。Classのコンセプトどおり、時代の当たり前にちょっかいを出していきたいです。

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